神の声を聞く
いよいよ競売の入札日が近づいた。一般の所有権は人気が高く、多くの入札があるが、私達が狙うお化け屋敷の隣の土地建物は、あまり人気が無いと予想した。しかし、油断大敵。もし他人に一円でも高く札を入れられれば一巻の終わり。専門家に聞いたところでは、こうした場合は地主が最低売却価格で入札して、借地権を所有権に変えてしまうことがあるという。
「あら、それだけは困るわね。どうするあなた」
私も強気と弱気が交錯し、なかなか入札の額が決められない。確かにこんな事が何度も続いたら神経が持たない。世の大人達が「悪」と知りつつ、公共工事で談合に走る心情も分かる気がしてきた。
締切りの当日に、最低売却価格にいくらか上乗せしたこちらの希望額を記入し、裁判所に提出した。開札の日は、それから十日後。あいにく開札当日は所用があり、発表のある会場には妻が出かけた。子供を幼稚園に送った後、小走りで駆けつけたが、やや遅れたらしい。堰をきって会場に入ったと同時に、妻は神の声を聞くことになる。