住むための土地を遂にゲット!
「○○番号××番、落札者カニヨシキさん、カニケイコさん。えっーと、これは共有ですね。落札価格△△円、以上」
もし、ほんの数秒遅れれば、この発表のアナウンスは聞かれなかった。運命的な出来事(とかく女性はこの手の偶然に弱い)に感激した妻は、今でも時々この時の夢を見るという。真に神の声に聞こえたらしい。担当のオジサンが事務的に読み上げただけなのに。
結局、応札者は私達の他には誰も居なかった。通常、まあ優良な競売物件には、ふた桁の応札があるそうだから、今回の物件はまったく不人気だったわけだ。思えば私達は、入札直前まで応札価格について悩み苦しんだ。競売には最低売却価格が予め決められている。それをいくら上回って入札するかが問題だった。
内緒だが、私達は結論として、その最低売却価格に十万円だけプラスして入札したのだった。断っておくが、ケチなわけではない。幽霊屋敷はともかく、広い借地権は人気が無いと判断したわけだ。読みは当たり、結果としてその十万円は無駄になったが、ほとんど最低売却価格で落札できたことに大いに満足した。
一般に借地は、所有権価格の六割程の評価であるらしい。競売物件は、その特殊性から、市場価格より三割程度安く評価される。さらに借地の競売となると、ここから名義変更料として一割引いた価格が、最低売却価格と設定してあるため、私達は計算上、通常の所有権の土地の四割にも満たない金額で落札したことになる。
バブルが崩壊したせいもあるが、昭和の最後の年に買った、あの私達を悩ませ続けた診療所付きの三十坪足らずの所有権の土地より安かったのだ。黙っていれば、外見上は普通の所有権の土地と何ら変わらないのだから、急に資産家になった気分に浸る典型的庶民の夫婦がいた。
「こんな事ってほんとにあるのネ。ウシシ(笑)」
妻が声を押し殺して苦笑する。脱出計画が現実味を帯びて、ガゼン明るさを取り戻した妻が私の頬をつねった。
「バカヤロウ、手加減しろよ。痛いに決まっているだろう。ウシシ(笑)」