もしやハバ抜きのハバなのか
こうして、住むための土地の取得に大きく一歩近づいた私達。それでも、落札した興奮がおさまると、さまざまな不安が頭をもたげてくる。なんせ競売に参加した経験は初めてである。我々以外に誰も入札に参加しなかった現実に、何か落とし穴が隠されているのではないかと不安に駆られた。やはり魅力の無い土地を買ってしまったのだろうか。有頂天になったかと思えば、不安が広がり暗い気持ちへと二転三転する。まったく、我ながら往生際の悪さに嫌気がさした。
冷静に分析してみると、この土地が風船のように奥で広がっていて、道路とは僅か四メートルしか接していないことも、不人気の要因だったに違いない。当然分割は不可能で、車の進入も容易でなさそうだ。入札締め切りの直前、もし車が進入できなかったらどうしようとの不安から、敷地と道路の関係を測定し、別の広い駐車場の空き地にガムテープを貼って、車を走らせながら実験を試みた。
「ウーン、何とか入るかな」
私の言葉に妻は、
「私には無理かも」
と幾分意気消沈ぎみだ。
「いつかマセラッティを買ってあげますから」
という結婚前の約束がまたひとつ破られていく。「嘘つき」のレッテルは当分消えそうにない。
落札のアナウンスを聞いてから数週間して、私達の手元に一通の封書が届いた。「売却決定通知書」だった。落札しても、関係者から「異議申立」がなされると、裁判所は、当事者に再度権利関係を聴取したりするのに相当の時間がかかる。その間、落札者は入札金も返してもらえず、ただひたすら「決定通知」を待つのみらしい。私達は、これも難なくクリアしたわけだ。これで残金を裁判所に振り込めば、自動的に私達の所有、いや権利になる。不安な気持ちなんかに浸っている場合ではない。