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奇策に満ちたアパート兼用住宅

建築確認申請の中では、木賃アパートも鉄筋コンクリートのマンションも共同住宅という名称で括られる。今回は住宅がテーマなので、この共同住宅に関わる様々な法律や条令との苦闘については割愛するが、とにかく高級なマンションならいざ知らず、木賃アパートと寄り添う自邸の佇まいをどう繕ってよいものか。この時点で自邸の設計は暗礁に乗り上げてしまった。

役所の担当者が納得する設計は、それ程難しいものではない。アパートの出入り口をなるべく前面に押し出し、避難経路を充分確保すれば良いだけのこと。ただそのとおりに事を進めた場合に到達する建物の姿が、悲しいかなこの時点で手にとるように見えてしまう。センスを売り物にする建築家の自邸とは月とスッポン。諦めがつかないままに悶々とした日々が更に続いた。

「あなたも正直過ぎるから駄目なのよ」
妻の何気ない一言が、またしても突破口となった。苦肉の策とでも表現しようか。八方ふさがりの私は、崖っぷちでハタと気がついた。建築基準法がある以上、それに適合させるのは当然のこと。しかし、デザインや完成後の使い勝手までは言及されない。とすれば、ムヒヒ(不気味な笑い)。
・・・このあとの具体的な策は一身上の都合により中略・・・

結果として、私の奇策の数々は何のお咎めも無く建築確認申請をクリアした。そして私は自邸の設計によって、法律や条例と旨く付き合う方法を会得したのだった。

差し仕えのない範囲でお話ししよう。ちなみに、表札の掛かっている自邸の玄関は、申請上は勝手口だし、クウェストの事務所の出入り口は、申請上は大きな窓である。アパートの玄関は確かに存在するが、何のデザインもされていないので、実際に住んでいる者でないと、どこが入り口か分からない。奥まった所にある集合郵便受けが、唯一、更に奥にあるアパートの存在を示しているだけだ。申請上は避難通路となっている所を駐車場へ至る車路に使っているのが微妙だが、火災の時など、実際の避難時には車は走っていないので安全に支障はないはずだ。

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