しぶしぶ登録工務店となる
株式会社エヌ・シー・エヌの後藤氏に「SE構法」の採用を伝えたところ、まず加盟店としての登録が必要だという。なんと登録料だけで数百万円。
「えっ、そんなの聞いてないぞ」
この頃から私は、納得のいく仕事をするため、住宅の工事に限り、職人のチームを作って、設計施工を始めていた。理由はこうである。最初の頃、施工はどこかの工務店に依頼していたのだが、現場へ行っても、どうも職人さん達と意思の疎通がとれない。彼らは、発注元の工務店の社長を通して指示をくれと言う。まぁ、当然といえば当然。しかし携帯電話が普及する前のこと、緊急時に限ってなかなか連絡が取れない。
「でも今すぐ直してくれないと困るんだけどなぁ」
今までいとも簡単だったビルの監理からすると勝手が違った。監督さえ常駐していないからだ。
「住宅なんて」とタカをくくっていたのだが、経験して分かったのは、なんと住宅の決め事の細かいことか。連日のように現場へ通うことになった。こんなことなら、いっそ工務店の機能を自分で持とう。その後、いくつか現場をこなすうち、勘と腕の良い職人だけが残り、直接その職人達に仕事を出す工務店としての体制が出来上がっていった。
「登録料といっても、工務店さんに対して、一旦受注して、途中でキャンセルとなった場合の当社の保険みたいなものでして・・・」
額に汗して後藤さんの説得が続く。いくら「SE構法」を推薦しても、施工のための登録料まで建て主に負担させられない。結局のところ研究開発費として計上し、全額当社が負担することになった。
「まだ何かあるの」
登録を済ませると、今度は施工技術の習得のために、大工たちを岐阜県の工場近くで行われる講習会に参加させろという。確かに新しい技術である。昔からの在来軸組工法に慣れた技術だけでは現場で途方にくれることが想像される。すぐに泊り込みで専属の大工二人に行ってもらうことにした。むろん、交通費、滞在費一切はこの私の負担となった。
関根邸の具体的な設計に入る。通常、木造二階建て程度なら、構造計算はこの私でも数日あれば終えられる。ところが、SE構法となるとそうはいかないらしい。構造計算に信頼が得られるのがこの構法のメリットの一つなのだから文句も言えない。しぶしぶ、専門の構造設計者に依頼すると、数日後に前金で数十万円の請求書が届いた。
思わぬ出費はまだ終わらない。
「あのー、個別の案件につき、SE使用料がかかります」
「はぁ? これではまるで悪徳商法のぼったくりではないか」
後藤氏が続ける。今度は彼の首筋からも汗が滴る。
「集成材や金物は原価に近い価格で提供しています。これは、私達の活動費みたいなもので」
とかく事業の立ち上げ時期はこうした創業メンバーの頑張りに支えられているものだ。
「なんだ、君たちの給料なのか」
今、冷静に思い出してみると、彼の粘り勝ちだった。とにかく、不安を抱えながらのプロジェクトがスタートしていった。