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何か新しいことに挑戦しなくては

建築家の端くれとしては、自邸の建設は千載一遇のチャンス。これを機に、羽ばたく建築家は多い。誰からも文句を言われないのだから、自由な発想が許される。とすれば、何か新しいことに挑戦しなくては、男がすたるというもの。どこか地元の工務店に依頼しても、同じ答えが返ってくるようであれば、職業としての存在価値がなくなってしまうではないか。圧倒的に何かが違わないといけないのだ。しかし、そこが難しい。

以前、私の上司だった設計士が和風住宅の設計を依頼されて、特注で白い瓦を製作したことがある。「すべてお任せ」だったので、つい力んでしまったようだ。確かに挑戦的で、その発想と行動力には感服したが、残念ながら建て主にはすこぶる不評だった。困ったのは、現場担当のこの私。苦し紛れに建て主に慰めの言葉を送った。
「すくに汚れて、グレーになりますから」

単純に瓦葺きでは、屋根に傾斜が出来る。しかも、かなりきつい勾配にしなくてはならない。結局のところ、どこから見てもただの「家」の形になってしまう。しかも敷地に余裕は無いのだから、軒の出は最小限にカットされる。例えば、平屋で深い軒の出のある屋根が醸し出す、その堂々たる日本建築の美が再現されるのであれば、「本当の美を知っている建築家」なんて賞賛に値もしようが、如何せん、軒の出が無いに等しい瓦屋根では、翼をもがれた鳥のように、無残な姿を露呈することは最初から明らかだった。

さらに、瓦葺の屋根にした場合、建物の周囲雨樋が取り付くことになる。これがまた、デザイン的には厄介なのだ。水の流れを考慮して、少し傾けて取り付けねばならないし、材質はほとんどが塩化ビニール製だから、時間が経って味が出てくるどころか変色してヒビ割れる。最近では、ステンレス製の美しい製品も発売されているが、とても高価で使えそうにない。

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