ARTICLE

傘の方が気持ちイイに決まっている

昔の映画に、よく雨漏れをバケツで受けるシーンが登場するが、あのようにはっきり場所がわかって、次の日に乾いてしまうようならともかく、天井裏や壁の中に沁みて、いつまでも乾かない状況を作ってしまったら建物の寿命は想像以上に短いとされる。あらゆる部分で合板を多用している最近の住宅は特に要注意と言えよう。

私も自邸の設計で、最後まで悩んだ「屋根をどうする」という課題については、夏の暑さ対策に加えて、この雨仕舞のために軒の出や庇を採用すべきか否かの決断に迷いがあったからに他ならない。そもそも、雨の日に傘を差して歩くか、頭からカッパを被って歩くか、どっちが快適なのだろうか。

大学時代、体育会系のワンダーフォーゲル部に所属し、訓練と称してわざと梅雨時に山歩きを決行した頃の記憶か蘇る。映画「銀嶺は招くよ」の主演、竹脇無我に憧れ、「山男は、きっとモテる」と信じ込んで、小雨の中、カッパ姿で野山を駈け廻った。ところが、汗がムレて気持ちが悪いのなんのって。一刻も早く下宿の四畳半に辿り着きたかった。山に居る間は風呂にも入れず、自分でも臭かった。当然、モテた記憶もない。

木造住宅も生き物。建物の気持ちになって考えてみれば、「絶対、傘の方がいい」に決まっている。つまり、短くてもいいから軒の出を確保して屋根をつける。そして、外壁に直接水がかからないようにする。暑さ対策にも瓦屋根が有利だった。しかし、建築家の称号を捨てられないもう1人の私は、結局最後の最後まで結論が出せないでいた。軒の出が不十分な形では、何としても絵にならない。記念の竣工写真なんか撮れるわけがない。機能を取るかデザインを優先させるか。さあ、さあ、さあ。

「外観で悩んでるの? どうせ他の家に囲まれて、周りから見えやしないのに」

まあ、確かに道路面以外は人目には触れない。見栄えは悪いが、屋根を勝たせて雨仕舞を優先させても誰も文句は言うまい。

「でも、ファサード(前面)だけは、せめてフラットにさせてくれよ」

「好きにしたら」

最後はあっけなく決まってもうた。

関連記事一覧

単行本

建築家が自邸を建てた その歓喜と反省の物語

Amazon&大手書店で好評発売中!

Amazonで買う

最新記事