外壁は左官仕上げと相場が決まっている
屋根が決まると、次に外壁の選択となる。外壁には防火性能が義務付けられているので、従来の左官材料か工場で加工されたサイディングが一般的になっている。そこで、最初に左官を考えた。外壁の左官材料の中では、セメント系の無機質なものが主流だが、珪藻土や漆喰なんかは、その後の変化を見ていると、生きている素材の感じがする。年月を経て古びてもそれなりに味が出て、陳腐さを感じさせないからだ。それゆえに木造住宅に最も似合うように思えた。
最近気に入っているケイソーウティカという左官材料がある。珪藻土と呼ばれる土を主体に、ワラやひる石などの異なった骨材を混ぜて、伝統的な落ち着きの中に、ややモダンな感覚が表現できるのが好みでもある。ただし、大手の開発なので、価格が高いのが難。材料自体もさることながら、左官技術にノウハウも必要なのだ。最初に採用した時は驚いた。道路からよく見えるたった一面を塗るのに、なんと8人の職人がやってきた。手際のよい工程を見守りつつ思った。
「ああ、これなら高いのも止むを得ないか」
いいものは、手間がかかっている。
しかし、住宅に限らず、近年、左官仕上げが衰退しつつあるという。とかく水を使う点で、現場も汚れ、非効率な工法であることには間違いないし、天候にも左右されやすい。そこで合理化の流れとして、水を使わない乾式工法が主流になってきた。おそらく左官職人も激減しているに違いない。知り合いの大工達に意見を聞いてみると、皆、同じ意見だった。
「先生、塗りものにしましょうや。第一、品格が違いますがね」
結論を出す前に、左官材料の問題点も考えた。小舞と呼ばれる細かな竹組みからはじまる伝統的な左官仕上げは別格として、延焼を免れるために、戦後の復興期に全国的に普及したラスモルタル下地の左官仕上げは、手間を簡略化した結果、性能的に短所も引きずっている。
気温の変化による収縮や地震の衝撃で、壁にクラックが発生し、漏水や剥離の原因となるようだ。軒の出が短いため壁が濡れ、カビや埃で汚れやすい。さらに構造体の柱や梁を外側からスッポリ被ってしまうので、早い話ムレムレの状態を作り出している。それを防ぐため、木組みを外部に露出させて、一枚の壁の面積を少なくする真壁工法という知恵は昔からあるが、防火規制のおかげで、よほど広い敷地が無いと都内では実現が難しい。
ところで、木造の場合、外壁に重いものは避けたいと思うのは、私だけではないだろう。よく言われることだが、木は生き物である。いくら構造計算でOKとなっても、人間と同じ生き物に長い間、過分な重量のコートを纏わせるのは酷な気がする。そこで、生き物としての木の骨組みには、石やタイルなどの重いものは避けたいと思った。
それでも、私がタイルの生産地で有名な岐阜県多治見市の高校を卒業している縁から、少しだけ贔屓目に見ると、タイルを貼った場合は外壁の経年変化が極めて小さく、目地の汚れさえ辛抱すれば、三十年くらいはメンテが不要との長所も無いではない。最近では、接着剤が発達し、目地が要らない工法や薄くて軽い素材も開発されている。ともあれ、外壁にタイルを貼る場合は、少なくともデザイン的にレンガ積みの手法をしっかり真似るか、逆に、アントニオ.ガウディの作品に見られるように、堂々と「表面にだけタイルを貼っています」とする潔さなど工夫が欲しい。
一方、最近では、無機質な素材がもてはやされている。特に、凹凸のついた金属の板を張っている写真をよく見かける。アルミスパンドレルとかガリバリウム鋼板とか呼ばれるもので、ここ数年その種類も増えてきた。昨今、公共建築物をはじめ雑誌に掲載される建築の多くが、重厚なスタイルから脱却して、より軽く透明感のあるものへ移行する傾向にある。もはや流行現象ともとれるこのスタイルが、住宅レベルにまで影響し、金属パネルとガラスの多用に拍車をかけている。
金属パネルは、確かに現代的な素材で、ハイセンスさが売りの私も嫌いではないが、コストをかけない安易な施工では、金属の宿命である錆びの発生を避けられない。表面劣化で斑になった十年後の姿が容易に想像できるとなると、ケチケチ自邸では、とても採用出来ないと諦めた。