三十年ぶりの落水荘
ニューヨークから飛行機で1時間余り。ゆったりとした大河の両岸に広がる自然豊かな美しい街、ピッツバーグの郊外にある「落水荘」を訪れる機会に恵まれた。実に三十年ぶりの再会となる。
今日、世界で一番多く見学者が訪れるこの富豪のための別荘は、約八十年前にフランク・ロイド・ライトの設計により誕生している。その真相は分からないが、小さな滝が眺められる別荘を希望した施主が、完成した建物を見て絶句。なんと滝を眺めるどころか、その清流の上、つまりその滝の真上に別荘が建っていたのだからびっくり仰天。その後、ひと悶着あったとか無かったとか。
財団により、しっかりメンテナンスが行き届いているので、その美しさは三十年前と少しも変わらないが、多くの観光客が訪れるようになった為に、事前の予約がないと入館できないし、写真撮影も禁止だという。ガイド付きの十人足らずのパーティに加わり、約1時間の見学がアッという間に終了した。私にとっては、建築設計の道に進んだ原点である。懐かしさとともに心が洗われ、再出発のための情熱を取り戻しながら帰路に就いた。
新しく高層ビルの設計の仕事が舞い込んで、そのヒントを求めたニューヨークの摩天楼。その中心部にある近代美術館(MoMA)では、おりしも建築家ライトの回顧展が大きく開催されていた。偶然とはいえ、運命的な出会いを感じながら彼のスケッチや精巧な建築模型に見入って時が過ぎていく。
翌日、五番街からレキシントン通りへ。流行の最先端を行くモダンな建築群たちを見て歩く。確かにそのいずれもが斬新で目を見張るものがある。が、しかし、私の心の中には、終始ピッツバーグ郊外の美しい森と清流がとどまっていた。そして、ふと脳裏をかすめる。新しい高層ビルの依頼者が竣工式に絶句する。な、なんと、ビルの中に××が。