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強くて汚れにくい壁を探せ

「塗装でも左官でも何でもいいけれど、触ったらポロポロ落ちるようなものや、汚れやすいものはイヤよ」
おっしゃることは、ごもっとも。でも
「言うのは簡単、探すのは大変」

嫌味のひとつも言わせて頂きながら、この一言を振り出しに、新しい材料探しが始まった。一般的にジョリパットが普及しているが、手垢もつくし、塗った時の質感に乏しい。次に珪藻土はどうか。なるほど手触りも「人に優しい」感じがあるが、比較的白っぽいものが多く、やはり汚れは避けられそうにない。それと、最近ちょっとブームのようになっていて、斬新さに欠ける。石膏ボードのジョイントのひび割れも避けられそうにない。

他には、火山灰のシラスを原料とした薩摩中霧島壁も候補に入れてみたた。表情は珪藻土に近いが、手に白く粉が付くこともあって、今ひとつ決定打とならない。困った。現場はどんどん進んで、山と積まれた石膏ボードがほとんどなくなっている。

これだけ勉強家で経験豊かな私(?)だ。新たに都内のショールームを駆け廻るより、過去の仕事の中で候補は見つからないだろうか。ふと、そんな勘が働いた。主にホテルの仕事を中心に遡ってみる。

答えはごく身近にあった。「灯台元暗し」と言うべきか。株式会社フッコーのシッタという左官材料だ。

シッタとはイタリア語で都市という意味の商品名で、正式には合成樹脂左官材となる。細かく砕いた大理石に樹脂を混和させて左官仕上げにするものだ。自然の大理石を使用しているため、経年変化に強く、紫外線などに当たっても色が褪せにくいため、最初は外壁材として開発されたようだ。私も以前、積極的に採用した。しかし、外壁としては遠く離れて見た場合、悲しいかな、ただの安価な吹き付け塗装に見えてしまい、評判は今ひとつ。
ところが、これを室内に塗ってみると、なんとまあ、その大理石の粒が質感を出し、実に深みと存在感のある仕上げに見えたのだ。このシッタを内装材として使用する最初の実験は、妻の兄の自宅だった。尾道の私立病院の一角を改装して作られたこの住宅は、私が住宅の設計を本格的に始めて間もない頃の習作と言ったら、時効だからとお許しいただけようか。それまで、市内の古い一戸建てから通勤を余儀なくされていた義兄は、老朽化を理由に、入院患者のために深夜でも駆けつけられるよう、病院の一角を自宅用にリフォームすることを決めたのだった。

さて、その一部に作られた娯楽室とは、医者である義兄が、気の置けない仲間達との談笑に使う場である。盆と正月以外、夜間も緊急患者の対応で、
「ちょっとそこいらのスナックで一杯」
さえも許されない立場にあって、唯一の気分転換の場であった。今では珍しくも無い大型テレビの置き場所を考えながら、世の医者達も芸能人に似て、所得は羨ましいほどとしても、自由の利かない誠に窮屈な人種なのだと、つくづく実感したのだった。その点、研究開発の名目で、ありとあらゆるものに興味を示し、スナックはもちろん、キャンパスクラブやガールズパーまで大いに見聞を広められる建築家とは、なんと自由で愉快な職業なんだろうか。これで、収入さえ伴ってくれれば・・・。やはり、世の中平等なのである。

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