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大理石の床はダメよ、ダメ、ダメ

廊下からリビングに入るワンクッションの意味で、四帖程度のホールを作った。最初はリビングに続く和室の予定だったが、平面図で見るとこの家のほぼ中心で、階段を上りきって「ちょっと一息」の位置にあるので、とくに意味のない、フッと気が抜けるあいまいな空間にしてみた。主な機能は、渋谷駅前のスクランブル交差点のようなものなので、ここだけアクセントのつもりで大理石を敷いてみた。最近流行のライムストーンである。オフホワイトの色調で、控えめなのが気に入った。

結果的には予想以上の効果をもたらした。竣工後は季節感のある飾りつけの場として、和室の「床の間」に近い機能も果たしている。トップライトからの光が燦燦と降り注ぎ、天井が高いことを生かして、巨大な観葉植物が鎮座する我が家の癒しの場所となった。ここに、床のライムストーンがよく似合っている。

しかし、冬場は、そこを素足で通ると、飛び上がらんばかりに冷たい。その昔、お金持ちの家の床は大理石と相場が決まっていたが、実際は、お金持ちの皆さん達が、我慢してまでこんな体験をされていたのかと想像すると、幸せはお金ではないことが分かる。

ところで、最近、婆ちゃんがこのホールでよく這い蹲っている光景を目にする。床を雑巾で拭いているのだ。時々観葉植物に水をやると、こぼれた水がすぐにシミになって床に残る。これがなかなか消えないらしい。そのシミを歯ブラシの要領でせっせと磨いているのだ。これでは確かに大理石は、お金持ちの家の床にしか使えないはずだと実感した。這い蹲った婆ちゃんの脇を、長男のケイスケがジュースを入れたコップをもってすり抜ける。
「ケイちゃん、走ったらあかんでねえ・・」
岐阜弁でたしなめる婆ちゃんの膝元には、すでに点々と果汁の跡が・・・。あの実家のバカ犬を思い出した。

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