生産中止は秒読み、重すぎる鋳物ホーローバス
さて、この後はモルタルで下地を作って、タイルを貼る工程となる。この現場ではタイル職人の藤成さんが腰を痛めたらしい。理由(わけ)を聞くと、彼は壁のタイル貼りの前に浴槽を設置することになっていた。そこで、現場に届いた浴槽の梱包を三階まで運び上げねばならない。ここ数年で主役に踊り出た人工大理石の浴槽ならば、職人二人で楽々移動できる。ところが今回のホーロー製は想像を絶する重量らしい。二人ではビクともしない。見かねた清水棟梁が職人衆全員に声を掛けた。一層ごとに梯子をかけて、引っ張り上げる者と押し上げる者が配置についた。自重が百キロを超えると、半端な重さではない。七人の職人を動員し、一時間かけて、やっと三階までずり上げた。
「ったく、先生は、いつもすごいモンを発注するからな。搬入方法も考えといてもらわないと」
藤成さんがボヤいた。まったくその通り。すぐにお茶菓子を買いに走った私。