超大型ダイニングテーブルを発注
具体的な大きさは夫婦で向かい合って、ちょうど良い距離を巻尺で測ることにした。
きっと新婚の頃ならもう少し短くなったに違いないが、「7年目の浮気」が危ぶまれる時期となった今日では、1メートル前後がちょうど良いという結論に達した。だが将来も考慮して、あと5センチお互いの距離を離すことで合意した。長辺は見た目のバランスを考えて2.6メートルとなった。
そんな経緯で、我が家のダイニングテーブルのサイズは1.05×2.6メートルに決まった。
しかし、そんな大きなものはどこの家具屋にも売っていない。
「特注するしかないわよね。予算無いけど」
この時、ヒノキ工芸の戸澤さんの顔が浮かんだ。この住宅の中心的シンボルの食卓だ。値段はともかく、彼に依頼するのが相応しい。
鮨好きの私としては、生涯使用する食卓の材質はヒノキのムク板が理想だった。
しかし、鮨屋でよく聞く話として、あの美しい白い木肌を保つためには閉店後も毎日、牛乳とヌカで磨き上げねばならない。さらに子供達が醤油でもこぼそうものなら・・・。それに、ヒノキの厚板は、近年では破格の値段で取引される貴重品。
「それなら、代わりにメープルの良い板が有りますよ」
メープルとは楓の木のこと。素直な白木で木肌も優しく、ヒノキに似たところもあるが、どちらかといえば女性的な感じがする。それでも戸澤さんがイイと言うのなら、とメープルに決めた。任せる以上は、後でどうこう一切言わないのがルール。特に、この人の場合、私の設計イメージより劣ったものが作られた例(ためし)がない。その点は安心だった。
「メープルは比較的柔らかい木なので、家庭での荒々しい使用に耐えるため、透明の皮膜を塗っておきました」
出来ばえは今回も文句のつけようがなかった。