外壁の色彩考
和歌山県田辺市の仕事の帰りに南紀白浜温泉の奥座敷「椿温泉」に立ち寄ってみた。
偶然、かの建築家の竹原義二氏の作「海椿葉山」を見つけ、宿泊先と決めた。
建築的には、随所にさりげない配慮が感じられる力作と評価したい。もちろん旅館としてのサービスも心地よい。
木造でありながら、曲面が印象的なフロント棟の構成は参考になったが、一番印象的だったのが外装の色づかい。紫色の土壁と木部のベンガラ色の対比が実に美しい。
さらに近づいて外壁に触れた瞬間、とても驚いた。これは当社でも頻繁に使用している某社の左官仕上げ材によく似ている。しかもこの紫色、なじみが深かった。
もともとクウェストでは、「建物の外壁の色は何がよいか。」と、あまり考えたことがない。
使用する素材の色そのものを尊重しているからだ。それに、人工的に着色した場合は、紫外線によって十数年で色あせる場合が少なくない。特に人工の塗り壁材の場合、チョーキング(掌に粉がくっつく)という現象が進行し、劣化が早まることも多いと聞く。
近年、その性能が評価されて、住宅の外壁にサイディングを採用する傾向が顕著だが、私は、建築予算が乏しい場合にも、人目に付く場所だけには、前述の某社の左官材をサイディングの上に重ね塗る手法をとっている。性能を守りつつ、風情を出すための苦肉の策である。
ところで実際に、外壁に色彩を付けざるを得ない場合、自然の土壁の色に加え、時々採用しているのがこの紫系。古来より最も高貴な色として鎮重され、一般庶民では身に纏うことも許されなかったこの色彩、街並みにも意外と溶け込むことを私は知っている。
製造元の某社に尋ねてみたら嬉しい回答があった。
「紫系の出荷は、二十年前から納品しているクウェストの方が竹原先生より早いかもしれない。」と。やはり追求(英語でクウェスト)していくと、案外同じところに到達するようだ。