植木屋巡り
建物の竣工が近くなると、必ず行うことがある。それは、植木屋巡り。住居系の建物を多く手掛けるようになって、さすがに造園家に依頼するほどの予算が無い。そこで建物の設計者たる私が自ら造園計画も担当せざるを得ない状況となった。
造園と言っても、都心で住宅を手掛ける場合は、「猫の額」くらいの隙間に、枝ぶりのよい樹木を数本植樹する程度だから、決して自慢できるほどの仕事ではない。が、何年も続けていると、それなりに知識も増えて、庭師に時々褒められたりもする。いい歳をして有頂天になっている自分が少々恥ずかしい。
当社で、財務の他にインテリアも担当する妻が無類の植物好きで、ブリザーブドフラワーの教室に通い、観葉植物の蒐集を始め、そして今は盆栽に凝っている。そんな彼女が「大好き」と言って、必ず植木屋についてくるから悩ましい。同行しても黙っていてくれればよいのだが、「何でも大きなものが好き。」と公言してはばからない彼女の助言で、つい計画よりふた廻りも大きな樹木を選ぶ羽目になる。しかし、この迫力が意外と顧客に受けている。
これまで、家づくりも八十件を超え、その度に植えた樹木は百本を超えている。最初に出会った植木屋の畑にある目ぼしいものは取りつくし、次に紹介された植木屋でも気になる樹木は無くなった。現在は四軒目。とても23区内とは思えない広大な樹木の畑の中を彷徨いながら、出会いを求める旅が続く。
最近では、落ち葉の処理が楽な常緑樹のシマトネリコが人気だが、個人的には「モミジ」に惹かれている。枝ぶりもさることながら、春の新芽の色、葉の大きさや形にこだわりが出てきた。最近の暖冬で、京都のような鮮やかな紅葉は期待できないが、季節によってその色合いを変えていく「モミジ」は、実に奥が深い。