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バルセロナの愛人の家

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バルセロナの市街から車で約1時間、郊外の小高い丘の途中にこの家はある。車庫のシャッターと玄関だけが道路に面するタウンハウスが無数に続く。どの家も窓が無く、中の生活は伺うことができない。中世に侵略を頻繁に受けてきた歴史がそこに潜んでいる。

その昔、語学留学で訪れたケンブリッジの同じクラスに8人のスペイン留学生がいた。何故か英語よりスペイン語が上手くなり、後に彼らの自宅を訪ねて廻ることになった。

ブロンドで色っぽいROSAの家に泊めてもらった時、妹のWITTYに出会った。瞳がブルーで脚が驚くほど長い中学生に私は一瞬で魅かれた。パパさんが会社を休んで古城の近くへハイキングに連れて行ってくれた。別れ際の彼女の涙が忘れられなかった。

二度目に会った時、パパさんが急死したことを聞いた。WITTYは二十歳を超え、グレース・ケリーのように美しかった。ハポンに行ってみたいと言う。「もしかしたら」

三回目にバルセロナを訪ねると自宅に招かれた。彼女はすぐに離婚し、テレビ局に勤めながらこの丘のタウンハウスに暮らしていた。車はイギリスの赤いローバー、立派なキャリア女性に見えた。玄関ドアを入ると、内部は明るく意外と広い。その奥に中庭があるスタイルは京都の町屋に似ている。

黒髪はいつの間にかブロンドに変わって、大きなブルーの瞳が眩しかった。

「大丈夫よ、娘と二人で楽しく生きて行くわ」

「逢えないけれど 季節は変わるけど 愛しき人」

福山雅治の「桜坂」に私の心境が代弁されている。

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