金沢はおいしい
久しぶりに質の高い建築物に出会った。金沢の兼六園に近い場所にひっそりと佇む鈴木大拙記念館がそれ。ストイックな玄関を入ると暗い廊下が伸びる。途中に一息つくための開口部があり、大木が借景になっている。さらに進むとなんだか意味のない空間が続き、来館者の落胆の声が聞こえる頃、いきなり明るい中庭に出て驚嘆の声に変わる。
水鏡のような浅い池の中に、記念館の象徴ともいえる白い巨大な箱が浮かんで水面に映り込む様は、計算された演出とは言え、ただただ息を呑むほどに美しい。私は、直感して茶室の空間構成を思い起こしたのだが、この設計者は只者ではない。早速、調べてみると、やはり大御所の谷口吉生氏。
この人の作品には、共通してこの水盤のある中庭が用いられるが、氏の人間性が現れているのだろう、どの作品も極めて高尚で洗練度が高い。同じ建築を志す者として、久々に心が洗われ、リセットできた。
雪の残る庭園をひと周りして、金沢21世紀美術館に向かう。もう何度も足を運んでいるのだが、美術の教師だった親父の血が残っているせいか、一応チェックしておかないと落ち着かない。
なかなか予約が取れない鮨屋の「めくみ」に、やっとの思いで予約が取れたのが夜の9時。それまで何とかして時間を潰さなければならない。とりあえず近江町市場に行ってみることにした。観光客の群れに混じって、肩越しに鮮魚や京野菜などを見て回るのも案外楽しく、時間が過ぎていく。
それにしても、金沢はおいしい。