所有権への未練
私達の作戦は、とにかく二か月の間に競売の落札金を一時的に集めて、そのあと銀行ローンに切り替えるというもの。ところがそうは問屋が卸さない。
「ええっ、借地を買うんですか。借地は資産になりませんよ」
最初は、「古家の建て替えの折は、是非当行で住宅ローンを」と揉み手だった住田銀行の融資担当者が、つれなく言い放った。その言葉に、決心がぐらつく。いくら、『借りる』ことに抵抗がないとはいえ、私だってホントは借地より、所有権のほうがいいに決まっている。
そもそも、田舎からの上京組にとって、東京で土地から購入して家を作ることは、半端でないお金の負担を強いられる。せめて子供達にはこのハンデを取り除いてやりたい。そんな親心から多額のローンを抱える夫婦も少なくないのでは。やはり無理しても次の代に渡せる所有権が有利なのか。銀行マンの言うように、このまま現在の三十坪足らずの所有権の土地に建物を新築した方が正解なのだろうか。またまた迷宮に迷い込んでしまった。
今回は「建築家の自邸」である。まさにその技量が試される貴重なイベントだ。これを契機に世界に羽ばたくことは無理としても、皆が「あっ!」と驚くタメゴロウ的な秀逸な案ができないものか。これまで、古家の建て替えプランは散々考えた。具体的には地下室を造ったり、屋上にはペントハウスを計画したりと、まるでパズルを解くが如くあれこれ案を練ってきたが、如何せん街中の狭小地。法的規制が厳しくのしかかる。三十坪足らずの敷地に、自宅兼オフィス兼二世帯住居兼車庫を盛り込んでほしいという妻の希望は、キノコのように建てない限り、到底実現出来そうにない。
「やっぱり広い借地が正解かも」
気持ちはまたしても借地に傾く。ああ、誰かどうにかして欲しい。