建ぺい率との戦い
配置計画が終わっても、具体的な部屋の広さはまだ定かになっていない。この段階でおおよその床面積を計ってみることにする。と、やはり案の定、建ぺい率オーバー。いつもの事ながら「またこいつとの戦いか」とため息が出る。 建ぺい率とは、敷地全体に対して、水平に建てられる床面積の上空から見た最大値を割合で示したもの。敷地の中に空き地を作るための規制である。
さて、どこを削ろうか。平面的な配置計画図でバランスを考える。夢も膨らんで縮小する場所が簡単に見つからない。どの部屋も削れないとすれば、廊下や階段を狭くすることになる。
が、しかし、これまでの経験で、こうした部屋以外の場所に余裕がない住宅ほど、圧迫感のある窮屈な建物になってしまうことが分かっている。その解決策のひとつとして、各個室の面積をそれぞれ0.9掛けとすることもある。八帖の個室が七・五帖になっても以外と住んだ印象は変わらない。
建物の設計の場合、居心地の良い空間を求めると、ある程度横への空間の広がりは欠かせない。日当たりや風通しの観点から、特に二階に居間や食堂を持ってきたプランの場合には、ちょっとしたガーデニングが可能な広めのバルコニーがどうしても不可欠となる。
ところが、このバルコニーの出幅が一メートルを超えると建ペイ率に算入されてしまう。
数年前までは床がスノコ状で、雨粒が下へ落ちるような形状なら、いくら広くても規制対象にならなかったが、今日では、しっかり建ペイ率に算定させられる地域が多い。都内で三十坪程度の敷地の場合、奥行き一メートル以上のバルコニーを確保することは、逆に居間や食堂などの部屋を削る結果となってしまうことがあるので頭が痛い。
都市計画から考えて、建物を敷地いっぱいに造ってしまうことを規制するのは当然としても、かすかな日差しを求めて、居間や食堂を一階ではなく、二階以上に配置する場合、小さなテーブルと椅子が置けるくらいのバルコニーを庭の代わりに認めても良いのではないか。
屋外的に使用されるこのバルコニーに限っては、その奥行きを二メートル程度まで建蔽率に入れないことを規制緩和したら、戸建て住宅に限らず、最近、雨後の竹の子状態に建設されているマンションも、ずいぶん居心地の良い空間になると常々考えている。
幸い私の自邸の場合、やや土地に余裕があったため、必要最小限の部屋の面積を削るまでには至らないが、三階に住宅部分を集中させたので、万一の火災を想定すれば広めのバルコニーは不可欠だった。もちろん、ガーデニングも楽しめる。だがそこまでの建蔽率の余裕が無い。一瞬、悪魔が忍び寄り手招きをする。
「竣工後に、そっと増築したらどう」
確かにその手はあるかも。リフォームと称してバルコニーを付加することなど、ご近所でも日常茶飯事に行われているようだ。ただ、建築士の自分が当事者となるとちょっと躊躇する。
「武士は食わねど爪楊枝、建築家を目指す自分にそんな違反はできねえぞ」
この時ばかりは、自分のクソ真面目さに嫌気がさした。
結果的には、建物全体の間口を三層分全て数センチ縮めて、六畳に相当する面積を捻出させ、懸案の広いバルコニーを三階の南面に堂々と設置したのだった。