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理想的な家庭内別居が実現

次に、階段を上がりきったところから西側のプライベートゾーンの話になる。最初に母親の部屋を水廻りの近くに決めた。しかも冬暖かな南側とした。このあたりの配慮に、孝行息子の片鱗が見え隠れしてしまう。昔から働き者の私の母は、孫の世話係と家政婦を兼ねているので、自分の部屋がキッチンや洗濯機の近くにあることが本人の希望に違いない。

出来た嫁の理解もあり、私の父親も同居することになったのだが、これが七十歳を超えて最近とみにワガママになってきた厄介者である。最大の理解者の私が言うから間違いはない。長く学校の教師を勤め、人に命令することはあっても、あれこれ指図されるのが大嫌い。実際は、頑固なのは家庭の中だけで、外に対しては「いい人」ぶりたい内弁慶。妻の佳子によれば、息子の私もそのDNAを、しっかり受け継いでいるとのことです。

設計が固まる前に、普段は控えめな母親が、こっそり私に哀願してきた。
「できることなら、父ちゃんとなるべく遠い、別々の部屋にしてもらえんかね」

それを聞いていた嫁の号令で、ついに家族会議が開催された。家庭内別居の決断をした母親と、突然うろたえる親父が席に着く。結婚して五年余り。可児市の田舎に家が有りつつ、両親を東京に呼び寄せた稀有な嫁が、今では家長としての地位を確実なものにしていた。
「おじいちゃん、一階のアパートに住んだらどうですか」

妙案だった。自邸の玄関に接したアパートの一室の壁を破ってドアを作ることで、男の隠れ家が誕生した。アパートだから、六畳の洋室に小さいながらもキッチン、トイレ、風呂もついている。ワガママ親父は誰にも気兼ねなく、五時になったら、ちょいと熱燗で一杯やり、好きな時に寝て、見たいテレビを邪魔されることもない。猫の額ほどの庭も気に入ったようだ。

「さすが佳子さんやねぇ、考えることが違うで」
生き甲斐の孫たちも、外に出ないで立ち寄ってくれる。用事があるときは三階の妻の部屋に直結してあるインターホンを押せばいい。娘に恵まれなかった親父は、心から嫁のケイコさんが気に入った。

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