泣いてたまるか
まさに大ピンチ。普段は仲の良さなど自覚もしない私たち夫婦も、この時ばかりは戦場の同志と化していた。二人の一致した考えは、とにかく借地権でも住宅ローンを実行してくれる所をシラミつぶしに当たることだった。どうしても融資がダメな場合は、現在まだ建っている古アパートに再度入居募集をして家賃収入を得るしかない。後は、馬車馬のように働いて建築費を貯めるまでだ。またしても夢が遠のいて行く。
裁判が始まってから苦節7年余り。絶えに絶えた妻も、今回ばかりはカラダ中の力が完全に抜けている。
「人生って、悲しいものですね」
演歌の文句が深く心に沁みてくる。野球に例えると九回裏ツーアウト、ランナーなし。ホームランが出て、やっと同点になる場面だった。
「ところであなた、公的融資なんてダメに決まっているわよね」
「もち。銀行より審査が厳しいからなあ。どこかに拾ってくれる神が居ないかなぁ」
絶望感に打ちひしがれ、眠れぬ夜の夫婦の会話が、はからずも天に届いたのは、それから三日目のことだった。
東京の都心部では、「敷地面積百㎡以上」という基準があるが故に、住宅金融公庫の利用は地方に比べると極めて低いと聞いていた。これまでも複数の住宅設計に携わっているものの、金融公庫にはほとんど縁が無かった。つまり、どの住宅も、土地の面積が百㎡に満たないのだ。坪単価二百万円以上する土地は、おいそれとは三十坪を超えて購入出来ないからだ。
それなのに自分自身のことで、初めて相談に出向くことになろうとは。確かに借地だが、敷地は百㎡を超えている。何事も初めての時は足が重い。最初の条件はクリアしているが、可能性は極めて低いと思われた。