問題勃発、工事は中断
ところが、それもつかの間、
「おーい、ちょっと待ってくれ!」
土屋棟梁の一声からその事件は始まった。工場で正確に加工されたはずの木材が屋根の部分で急に組めなくなっていた。何か変だ。まず、クレーンの動きが止まった。皆が三階に集まってきたが、その原因がすぐにはわからない。
「これ、屋根の勾配が違うんじゃないの」
長年の勘で土屋棟梁が最初に見つけた。どうやら原因は片方の柱がすべて数センチ短かったのだ。最初の数箇所は長い梁がしなって、何とか組み上がったものの、だんだんごまかしが効かなくなった。
「どうしてこんなことに」
今回も自発的に立ち会ってくれていた株式会社NCNの後藤さんの顔から血の気が引いていく。職人達にはどうすることもできない。
「休憩するべ」
全員、一斉に地上に降りる。サッカーの試合中、半裸のオヤジが飛び込んできて、試合が一時中断になったあの感じ。その間にも、携帯電話で工場の担当者に連絡をとる後藤さんがいた。
「今すぐ現場に来て修正できないの?」
電話でのやり取りが続く。そして、声がだんだん荒立ってきた。
「何、無理?何とかしろよ、コノヤロウ」
とまで言ったかどうか。もちろん工事は中断のままだ。
このとき、現場の端にいた私は、このミスの原因がこの私自身にあったことに気付き始めていた。一般に、きちんとした仕事の時は、設計図を基に、より詳しい施工図を書くことになっている。そういえば、少し前、この施工図を承認する際、ある意図があって屋根の勾配を変えておいたのだった。おそらくこの変更が工場内でうまく伝達されなかったのだろうと推測して、血の気が引いた。そういえば変更後の再承認はしていない。確かに工場内での入力ミスだろうが、私にも責任の一端がある。