雨を制する者、建築を制する
高知県の親友、太田君を思い出していた。以前話題にしたことのある彼は「土佐派の家」と称して、その地域の風土に則した独特のスタイルを確立し、建築雑誌でもよく取り上げられる実力者だ。彼の言によれば
「君たち(私を含む)の作っているモダンでカッコいい家は、高知では直ぐにダメよ」
なのだそうだ。毎年、台風の直撃を受けるこの地方の豪雨は、我々の想像をはるかに超えている。幸い、その場に居合わせたことは無いが、学生時代を含め十年以上も東京に住んだ経験のある彼が比較して真剣にそう言うのだから、まんざらウソでもないらしい。
土佐派の家でなくても、広く軒の張り出した木造建築は安定感があり、それだけで素直に美しい。日本の気候風土からも理にかなった形だ。ただこの首都圏では、敷地はすこぶる狭い。悲しいかなそれが許されない現実がある。そのせいか、最近の建築雑誌には、軒の出をまったく無くし、窓の庇まで省略した箱状の住宅ばかりが紹介されている。わずかな軒の出なら、いっそ無い方がよいのだろう。実に潔いではないか。
が、しかし、コンクリートの建物の場合、屋上の防水さえきちんと施工されていれば、多少の雨を撥ね退けてしまう力強さがあるが、木造の場合は、雨水の浸入についてより注意深い設計と施工が要求されるはずだ。
あの薬師寺の再建で有名な、故西岡棟梁の手記に
「木造で二階建てを作るのなら、一階と二階の間に庇をぐるりと廻すのが良い」
と書かれている。実際にそうしてみたら、若い建築家の人たちには苦笑されるだろうが、木造を知り尽くした人がそう言い残すのだから、一蹴することもできない。屋根の存在を消したカッコよさは、漏水の危険と隣り合わせにある。