ARTICLE

まず天井を高くしましょう

では、ホテルの室内空間にはどんな特徴があるのだろうか。今までそんな事、考えもみなかったが、住宅に最も近いスイートルームを分析してみる。スイートとは寝室と居間が分かれているホテルの部屋の総称。その分広いので室料もお高い。お金持ちか芸能人が利用するものと世間では思われがちだが、案外そうでもないらしい。

最近では結婚式や、誕生パーティーなどで利用するケースも多く、使い道は多彩と聞いている。最近開業する高級ホテルでは、室料に比例して、天井が高くなってきた。著名なホテルが軒並み外国人にインテリアデザインを依頼する風潮にあり、多分その影響で欧米並みの天井高になっている。

我々日本人の多くが、住宅の天井高として馴染んでいる八尺、つまり2メートル40センチ前後は、欧米人の感覚からするとかなり低いようだ。床に座って生活する我々は気にならないのだが、椅子の生活の彼らからすると、頭を押さえつけられる感じがするらしい。ところがこの天井高、私の経験では、ほんの少し、例えば30センチ高くするだけで圧迫感から解放されるだけでなく、頭上に空気の塊を感じるほどに印象が変わり、高級感すら漂ってくるから不思議だ。

座る生活習慣から、椅子の生活に移行しつつある今日、ちょうど目線の差が30センチくらいあるのだから、日本でも天井高の見直しがあってもよいかもしれない。ともあれ、壁紙であれこれ悩んだり、下手な装飾を施すよりは、天井高を少し上げるほうが、ずっと洒落た部屋になることを、私はホテルの仕事から体得していた。

木造建築の場合、一般に柱は十尺、つまり3メートルで作られている。これに横方向に梁が取り付いてくることから、天井を直に貼った場合には最大で2メートル70センチ程度となる。これでもきっと「高い」と感じるはずだ。高さに制限がされる場合、建築家は、天井を張るのを止めて、2階の床板がそのまま一階の天井になるような大胆な設計をすることもある。それはそれで多少手間が掛かるのだが、面白い試みだと思う。ただし、私の場合は実績が少ない。配線スペースが見つからず、電気配線の職人たちが現場で悩み苦しむことになるのを知っているからだ。

都心の密集地で、一階に直射日光が入らない敷地では、思い切って二階に居間や食堂を持ってくる設計が増えている。三階建てともなれば、いっそ最上階に居間や食堂を造る発想もある。
「階段の昇り降りが大変」
という反論もあろうが、光が燦燦と降り注ぎ、風通しも良い最上階の空間は、夜しか使わない個室にしておくには少々もったいない気もする。天井の上が屋根ならば、天窓を取り付けるという手もある。天窓は、壁の窓の3倍の明るさが得られるとされているし、私の体験では、明るさもさることながら、とにかく風通しが抜群である。夏場はエアコンの代用ともなるのだ。

高い天井を勧めると、
「天井が高い場合、いくら暖房をしても、(暖められた空気が上部に溜まって)部屋中が寒くて仕方がない。どうしてくれるんだ!」
とクレームが来ることが予想される。

この解決策としては、まず断熱材をしっかり施工すること。断熱の性能を高くしておくと、上下の温度差が少なくなる実験結果が報告されている。次に、床暖房をお薦めしたい。高い天井に床暖房と高断熱のセットで、ワンランク上の快適空間が得られること間違い無い。

以上のことから、私の自邸では、食堂と居間、さらに寝室と子供室まで、可能な限り天井高を確保することに決めた。ちなみに、家族が集まる食堂と居間の天井高は、柱を継ぎ足して通常より80センチ高い3メートル20センチとなった。完成後に我が家を訪れる客人の最大の感心事は、この天井が高いことにある。この高さになると、天井の仕上げ材料はそれ程気にならなくなる。最も安価な白いペンキ仕上げとしたが、これが自分でも不思議なくらい高級な仕上げに見えてくるから笑える。

「皆さん、これからの住宅作りのポイントは天井高ですぞ」
私は、声を大にして叫んでおきたい。また、寝室と子供部屋は単に屋根なりに斜め天井にした。片方の天井が高いだけで、それなりに個性的で開放感のある部屋になっている。これはどんな家でも可能なので、是非試して欲しい。

関連記事一覧

単行本

建築家が自邸を建てた その歓喜と反省の物語

Amazon&大手書店で好評発売中!

Amazonで買う

最新記事