イタ公、恐るべし
ミラノ市街から北に車で2時間。世界でも三指に入るらしい巨大なツキ板工場を見学し圧倒された。多少の例外を除き、木目の美しい貴重な木材は、世界各地の産地から、ここイタリアに集められ、そしてまた世界各地の家具や建材メーカーに出荷されるらしい。大理石なども同様なルートを辿るようだか、さすがにそのストックの量は想像をはるかに越えていた。世界は、大きくて広い。
「おっしゃっていただければ、どんな種類でもお見せできます」
と言っていると通訳は言った。メイドインジャパンが最高と疑わなかった私には、目から鱗だった。イタ公、恐るべしなのだ。
ダンディ上村と私は、早速ホテルグランコート名古屋の内装に使用するホワイトシカモアの代用品を探した。束になったツキ板の梱包を開けてもらい、特に木目の美しいものだけを選んで廻る。
「あるある、あるではないの」
二人とも思わず頬が緩む。自腹で来た甲斐があるというもの。
「ついでに、マッカーサーエボニーはないの?」
あるに決まっていた。それも掃いて捨てるほど。
「シー、グラッチェ」
ついでに買わされた。但し、値段は国内の半額。大手ケチゼネコン「S」が喜んだのは言うまでもない。
木は生き物。同じ種類でも一梱包ずつ開けてみるとその色合いや木目の表情は少しずつ違う。濡れタオルで拭いてみて、仕上がりの見当をつけながら、日本に送るものに印をつけて廻った。その数、百束以上。イタリアの昼下がりは暑い。いつしか、首筋から汗が滴り落ちる。こんな涙ぐましい美談があってこそ、ホテルグランコート名古屋の内装は、実に品のある暖かい表情となり、今でも好評を得ていることを、誰も知る由がない。