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名古屋のホテルで

そうこうしているうちに、私の本業であるホテルの内装監理の仕事が佳境に入っていた。場所は生まれ故郷に近い愛知県名古屋市。金山駅隣接に建設中の地上30階建の全日空系ホテルだ。この現場では、インテリアデザイナーは米国人を起用。私の仕事は、彼らのデザインを理解して、わが国の様々な法規制の下、コスト的にも帳尻を合わせるコーディネートの役目。聞こえは簡単だが、これが誠に難しい。この時の奮闘記は別の機会に譲るとして、内装材としての木について語れば、新しい発見がいくつかあった。

デザイナーから提案された木のサンプルの中に、私の感性を揺り動かしたマッカーサーエボニーという名の木があった。仏壇に使用される黒檀ほど黒くなく、今では伐採禁止になっているローズウッドより渋く濃淡が強い。どうしてもこのホテルで採用してみたかったが、調達が無理と分かった。つまり国内に在庫がまったく無いのだ。

それに加えて、このホテルのイメージを決定的にするであろう、大量に使用されるホワイトシカモアという材が、非常に高価で、とても予算内に納まらないことが判明した。金額的には材料費だけで億に近い。もちろん、国内在庫は限られる。ところがデザイナーは一歩も引かない。私の流暢な?英語をもってしても説得が効かない。されとて、工事を担当するゼネコンも、簡単にはOKできない額である。押し問答が何日も続いた。

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