光で壁を洗う手法
さて、もう20年以上も前のこと、私が建築家故白井晟一の建築作品に傾倒していた頃、氏の「光で壁を洗う」という手法に感銘して、「これはイタダキ」とばかりに自分の仕事に盛んに取り入れてきた。それは自然光や照明の光を使い、ある一面の壁だけを明るく照らし出すことである。この単純な方法の何が良いかと言って、実はこれほど空間をドラマチックに演出できる技法は他にないのだ。
さらにその後、ホテルの建築に携わるようになって、この「光で壁を洗う」手法は、ますます必須アイテムとなってきた。というのも、ホテル建設の仕事で関わる外人のインテリアデザイナーのほとんどが、この手法を使いたがるのだった。
そもそもホテル建築では、照明計画が最重要ポイントのひとつだと断言できる。その証拠に、昼間のホテルのなんと味気ないことか。勿論、ホテルの設計では、人や物の動線、バックヤードの合理性など重要なポイントは山ほどある。しかし、機能的にいかに優れた設計がされていても、出来上がったホテルが、利用者の気持ちを高揚しない空間では価値が半減してしまう。それどころか、やがて経営的にも苦しくなっていくことを多くの事例から学ぶことが出来た。
では、どうしたらいつまでも人気が失せず、品格や華やかさを保ち続けられるホテルとなるのだろうか。答えは簡単ではないだろうが、内装に限って敢えて断言すれば、成功しているホテルのどれもが、施設内の照明効果が憎いほど上手く仕上がっている。高価な材料を使用しなくても、明かりのコントラストで奥行き感のあるドラマチックな空間に変身させるテクニックが確かに存在する。