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水漏れ覚悟の在来工法

そんな理由から、悩んだ結果、私はユニットバスを諦めて、一品生産品、つまり在来工法による浴室作りに再度挑戦することにした。まず最初のポイントは、防水層をどう作るかだ。その真下は貴重な収入源のアパートになっている。万一漏水でもしたら、さあ大変。損害賠償まで覚悟せねばならない。この「万一」が発生した場合、多額のローンを抱えた我が家は、経済的損失は大きい。家計を切り盛りする妻は、きっと吐き捨てるように言い放つに違いない。
「一級建築士もなんもあるもんね。いったい、どうしてくれるのよ」

私は、今更ながら、防水関係の専門書を買いあさり、研究を重ねた。そして、結論としてはFRP防水を採用することにした。分かりやすい例としては、小型ヨットの船体がこれで出来ている。つまり、ヨットの中にお風呂を作ろうという具合だ。船体の中に海水が入り込んでも、排水口から出て行くという理屈だ。一般には、屋外のバルコニーの床にこれを採用することが多いが、この場合は七、八年でメンテナンスが必要になる。しかし、今回は温度変化や紫外線による影響が少ない分、長期的に安全だと判断したのだった。

 次に湿気対策を考える。木造はとにかく水や湿気に弱い。しかし、逆にこれさえ注意すれば、法隆寺のように鉄筋コンクリートより長持ちするのだから、念には念を入れることにした。資料を取り寄せてみると、浴室用の防水シートなるものが、ちゃんと市販されていた。日本人は実にエライ。細部に至るまで、誰かが極めている。感激ついでに「ここは大事」と奮発して、最上級の厚さ2ミリの防水シートを注文したが、後で送られた請求書を見て目が点になった。予定の金額の4倍もしたからだ。

「保険代と思えば安いもんよ」
妙な言い訳を準備したことを覚えている。

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