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トイレの位置取りに苦心する

我が家は、爺ちゃん婆ちゃんも含めて家族6人なので、トイレは2ヶ所必要だと直感していた。古家の場合は、一階が10坪ほどで、真中に急な階段があり、その段板の下の斜めの空間を利用してトイレがあった。その為、家のどこにいても、常にジャージャーと水洗音が聞こえていた。

トイレのドアを開ければ、目の前はキッチンだし、その隣はダイニング兼リビング兼子供部屋だったから、今になって振り返ると新婚時代の妻にはずいぶん気の毒なことをしたものだ。そんな懺悔の思いもあって、新居ではトイレの位置を最優先して配置する設計になった。

限られたスペースの中で、効率のよい間取りを追求すると、廊下の少ないプランになる。最近の建築雑誌には、この廊下がまったく無い間取りも少なくない。しかし、トイレの位置を真剣に考えていくと、どうしても居間や食堂など家族がいつも集まる場所から少し離れた位置が理想だし、ドアが開いた時、内部が直接見えないようにしたいものだ。

さらに音の問題を考慮すると、どうやら廊下を作らないとうまく配置できないと分かってきた。こうして個室群を貫く長めの廊下を作ることが確定し、そこに面してトイレの位置も自然に定まっていった。

さて、次にもう一つのトイレをどこに作るのか。生活の主体となる三階のすぐ階下に私の事務所がある。そこにもトイレが必要だったから、これを兼用することになった。階が違えば音の問題もないし、予備としてのものだから結果的にこれでよかったと思っている。

昔からトイレの広さは畳一帖と相場が決まっている。最近のマンションではその3分の2まで縮まっているようで、大抵どのお宅に伺ってもその程度の広さであることが多い。ところが以前の我が家では、その一帖の広さに問題があった。古家があまりにボロだったせいで、妻も私も新婚時代から「友達は呼ばない(呼べない)」という暗黙の了解ができていた。

そのせいか、トイレの中の仮設の棚に単行本や雑誌が山と積まれ、時々それらが音をたてて床に転げ落ちるアクシデントが続いた。妻のケイコは無類の読書好き。私は、無類の雑誌好きだから、自然に書籍は増えていく。

この私は昔から、何もしないでジッとしていることに絶えられない変な癖がある。電車の中でもそうなのだが、ただ黙って座っていると、だんだん「無駄に時間を使っている」という罪悪感が増幅し、自分がさらに馬鹿になっていく強迫観念に襲われる。そんな時は、すかさず途中下車してキオスクで適当な雑誌を購入してしまうのだが、衝動的に買ったものにロクなものはない。一通り目を通した後に必ず後悔するハメになるのだが、次も、ついつい買ってしまうのは悲しい性(サガ)と言うほかない。

そんな理由から、新しいトイレでは、来客時にも恥をかかないように雑誌類が整頓できる、作りつけの棚板を最初から取りつけることにした。その分、畳半分だけ床面積が増えたわけだ。 しかし、たった半帖広がっただけだが、その効果は絶大だった。

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