木製サッシのトラウマ
最近の自然回帰への傾向も手伝って、木製サッシが採用されている作品が時々見受けられる。当然のこと、私もカタログを取り寄せて検討したが、どれも思ったより高価だった。更に現在の木製サッシはペアガラスが入ったものが多く、とても重いもので搬入費が余分にかかる。とても全箇所に採用する予算は無いのだから、一点豪華主義で、どこか一箇所に採用してみようかとウジウジ思案しているうちに、またまた時間が経っていった。
その昔、岐阜県可児市の私の実家では、建設当初(昭和35年頃)、まだ住宅用アルミサッシは普及しておらず、全て手作りの木製だった。帰省の折、よくよく観察してみると、それはそれは美しく加工され、職人の技量が見て取れる立派な建具ばかりだった。しかし、如何せん気密の度合いは緩く、隙間風が防げない構造になっていた。
息子二人を東京の大学に入学させ、田舎に残された両親は、身も心も、さらに懐具合も寒かったが、しばらくして遂に窓のすべてをアルミサッシに入れ替えた。母親は貯金がなくなったと嘆いていた。このトラウマも手伝って、
「ここは一発、奮発して木製サッシを入れよう」
との意気込みにブレーキがかかっていた。最近の木製サッシは改良がされて、隙間風の心配はいらないと聞くが、今回は縁がないと考えた。価格も含め、現在の私達には木製サッシで得られる情緒を楽しむゆとりはなかった。