退屈で長い階段に一工夫
いくら緩い階段でも、二回も連続して続けば、その往復は単調で退屈な時間となるに違いない。そこで、途中の踊り場あたりに何か楽しげな装置を設けたいと考えた。建ペイ率に余裕が無いので、これ以上床面積を広げることは許されない。しぶしぶ建ペイ率にも容積率にもカウントされない出窓を作ることにした。大工仕事の手間賃だけ覚悟すれば、ちょっとした演出空間が簡単に出来上がる。
出窓は部屋を広く見せるための姑息な常套手段だが、今回は退屈しのぎの演出として活躍させたかった。ここで忘れてはいけないのは、照明効果。ここを生かすも殺すも、この照明で決まってしまう。間接照明を仕込むことにした。
出窓には彫刻と大きな書を入れた額を飾ることにしたが、後日、これが予想以上に我が家の個性作りに貢献しているようだ。二か所ある踊り場の出窓コーナーでは毎日これらのアートが嫌でも目に入る。ここに照明が当たると演出効果が高まり、本当に高価な美術品に見えてくるから笑える。
上の出窓に掛けた額縁入りの書は、あのバブル時代に、見栄と成り行きで購入してしまった高価な一品だ。その直後にバブルがはじけて、後悔しきり。
「なんて無駄な買い物をしたのだろうか。バカ、バカ」
思い出すたびに腹が立つので、古い毛布に包んで妻にも内緒にしていたが、十年後にやっと日の目を見ることになった。
下の出窓に置いた彫刻は、「タバコと塩の博物館」でインド物産展があった時、片言の英語を駆使しながら値切り倒して買った馬の置物。冷静になって観察すると、現地では道端に転がっているような偽物かもしれないが、手作業による苦労の跡が感じられるので捨てがたく、これまたの押入れの隅に眠っていたものだ。