和室の玄関も悪くないが
最初の案では、階段を上りきった正面は、妻の達っての願いで、床の間を兼ねた和室になる予定だった。ここから居住スペースが始まる第二の玄関。箱根の旅館のように、畳敷きの玄関から始まる住まいもなかなか粋かと考えた。
やっと夢が叶い、かつての美貌を取り戻した着物姿の妻が、
「今日もお疲れ様」
と三つ指ついて私を出迎える。その舞台としても最適な場所と思われた。だが、そんな冗談が災いしたのか、工事途中になって妻が悩み始めた。
「ほんとに和室でいいの?おかしくない?」
出来てしまえば案外馴染むものだが、ほとんど通路になる運命を持った和室である。落ち着かないといったらそれはそう。工事中の騒音の中で、二人で腕組みをしながら考えた。この程度の変更は、竣工検査の審査対象にはならないが、床のレベルが問題だ。
「とにかく早く決めてくんな」
大工の土屋さんが笑う。
畳の厚みは60ミリある。他の仕上げは20ミリ程度。床の下地のレベルを早めに決めておかないと、後にわずかな段差が問題となる。早めのファイナルアンサーが必要だった。
二層の階段を一気に駆け上がると、きっと家族の皆が一息つきたくなるだろう。和室もいいが、何でもない廊下の続きのような、うつろでフレキシブルな空間にしておくことも有りだった。名づければアルコーブまたは多目的ホールとでも呼べるのか。
「和室だったら、床を少し上げた方が価値が上がるわね」
「だったら後で畳を敷いてもいいし、どうにでもなる」
とりあえず、ホール案に変更することで落ち着いた。