セレブも羨むダイニングルーム

特大のダイニングテーブルに椅子はカッシーナ社のブレイク。立派な食事の場が誕生した。実はこの椅子、その昔バブル経済の頃に、渋谷公園通りの私の派手な事務所で応接用として活躍していたもの。イタリア製の名品で４脚揃えると小型車が一台買えるほどの高級品。こんなものが簡単に購入できたのだから、本当に不思議な時代だった。

案の定、数年後には、公園通りの私の事務所は閉鎖に追い込まれ、哀れ自宅兼事務所に引き篭もることになってしまったのだが、この椅子だけは古家の押入れでの長い眠りから覚めて、再び生き返ったのだった。こうして家具は最高級、さらに高い天井とそこにある天窓からは青空やお月様が眺められる。こんな空間で毎日食事ができるようになるとは数年前までの私たち夫婦は夢にも思わなかった。

こうして私の自邸の中心的存在であるダイニングルームは、ほぼイメージどうりの快適な空間に仕上がった。後にボーズの小さなスピーカーを壁に掛け、軽いジャズやBGMを流しているが、これがまたニクイほどの演出効果がある。手前味噌なのだか、下手なレストランより数段居心地がよい。

「結婚したら、すぐに建替えるからね」
その言葉を信じつつ、８年以上も待たされた妻は、ある日突然ランチョンマットまで買ってきた。生まれ故郷に程近い有田の窯元で、人気が高い源右衛門のオリジナル商品だった。使ってみると実に豊かな食卓に見えるから不思議だ。新居に移ってからは、配膳の準備はいつも子供達の仕事になっているが、いつの間にかこのランチョンマットが人数分最初に敷かれている。今では、このマットが敷かれない夕食は実に味気なく、無くてはならない存在となってしまった。

「どう転んでもお互いセレブにはなれないよね」
「あたりまえでしょ」
笑い飛ばしているものの、本当のセレブな人達でも、こんなダイニングルームで毎日食事を楽しんでいる人は案外少ないのではないだろうか。
人間、環境で変われば変わるもの。ああ、あの古家のコタツ板が懐かしい。