空中庭園に異変が
家族が集うダイニング空間と、それに続く自慢の空中庭園との間は、新発売の全開口サッシになっている。掃出し窓の四枚がアコーデオンのように左右にたたまれて、一見ガラスサッシがなくなったようになるから、確かに開放感は最大だった。春に引っ越して、夏の気配を感ずる頃には、夜間もオープンエアーになったままの日が続いた。知らなかったが、妻は、窓を開放しての生活が憧れだったらしい。遠い南の島のDNAは、まんざら冗談でもなさそうだ。三階のおかげで、窓をすべて開け放して眠っても、防犯的には安心感があった。
ところがどうだろう、住み始めて一年も経たないのに、このオープンサッシが開きづらくなってきた。上と下がズリズリと擦れている。最初のうちはクレ55で騙し騙し使っていたが、いよいよ開閉が重くなってきた。重いというより開かないのである。
しかし、最上階でもあるし、屋根以外は何の荷重もかかっていない。床からサッシ上の窓枠までの高さを測ってみると、不思議なことに上の鴨居はタレていなかった。清水棟梁の仕事である。当然なのだが。はたして、責任はサッシ本体にあるのか、それとも取り付けた大工の仕事の範囲なのか結論が出ないまま今日に至っている。
サッシの白いレールは、何度も力ずくで開閉させられた結果、無残にもアルミの金属色が痛々しく露出してしまっている。さらにガラス窓と枠の間には隙間ができ、ホームセンターで買ってきた隙間テープが貼られる始末。そして、脇の収納庫にはクレ55が常備されている。
これが我が家でなかったら、当然クレームとなって修理を余儀なくされている。もちろん、これを取替えるとなると、外壁も内壁もやり直しとなるので、とりあえず様子見なり。新しいものには、すぐに飛びついてはいけない教訓だった。
それでも五月晴れの日曜日の朝。クレ55をシュッと一吹き、アルミの擦れる音を我慢して、このオープンサッシを力ずくで開け放つと、瞬間あのハワイにも劣らない乾いた風が頬を撫でていく。バブル崩壊以後、すっかり遠くなってしまったハワイだが、同じ気分を自宅で疑似体験できるのだから人生諦めてはいけない。心配された網戸は、特注で建具屋に依頼したものの、開け放していても不思議と虫が入ってこない。まして、蚊の姿もほとんど見かけることもなく、少々肩すかしの感じがした。私の推測では、地上三階ともなると、蚊の諸君も途中で昇るのを諦めてしまうのだろう。